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提案型企業への変身

表面処理としての塗装は、業務形態が典型的な受託型業務である。
一般には、塗装品が製品に組み込まれて初めて最終商品とはるのがほとんどであり、どうしても、受身にならざるを得ない傾向をもつ。
したがって、常に発注側の条件に合わせて納期、塗装仕様、単価、工程、塗装材料、品質などが決められるため、その範囲内でどう処理するかが、塗装工場サイドの裁量となる。
こうした状況の中では、どうしても価格交渉力において弱くなる傾向を生み、独自の特徴を発揮しにくい環境をつくり出している。
しかし一方で、現在のように塗装量の全体的なパイが縮小している中にあってもなお、仕事量を確保している塗装工場もある。

−提案型企業−
この差の源泉の一つが、「提案型企業」になっているか否かにある。
それでは、提案型企業に変身するためには、どうするべきだろうか。
そのポイントについて、以下に考えてみたい。

(1) 品質保証・塗膜保障としての塗装
塗装を塗膜保障としての「塗膜を売る」として捕らえ、自社の塗装レベルを積極的に発注側に知らしめる努力をすることが、第一のカギである。
この時、自社ばかりでなく、競合会社の塗装品質も同時に検査し、参考として、その品質レベルを提示し、業界・業種での自社レベル位置をハッキリさせることも良い姿勢である。

(2) コストダウン、付加価値の提案
塗装仕様について、品質レベルを維持しつつ、コストダウンを達成した場合に、その利益を相互に共用できるような仕組みを、発注側に申し出る。
コストダウンは、「塗装工程・塗装材料・乾燥条件・板金加工状況を変えられないか」など、多方面からシステムとして塗装を検討することで可能になる。
塗装方式では、液状塗装では溶剤型から水系への転換、あるいは液状から粉体塗装化への転換、乾燥時間の短縮化・低温化など、省エネ的提案など、コスト以外の環境、品質、省エネ、節水などの要因も含めて提言し、発注側と共に取り組みたい。
また板金の例では、板金仕上がりが悪く、それを塗装でカバーしていたのを、塗装の限界とそのことで生じるコストを示して問題提起を行った。
板金サイドでサンディング処理し、塗装工程負荷を軽減したほうがトータル的なコストダウンが結びつくことが判明し、塗装の前後工程の改善に結びつけた例もある。

(3) 塗装設計側とのコンタクト
塗装技術情報を設計技術者側に積極的に提供するようにしたい。
色の規格、塗装方式、他社の塗装仕様、設計上、塗装効率に配慮した設計、塗装材料など、設計によって塗装コストが大きく左右され得ることを理解していただくことが重要である。

(4) 情報の紹介、サンプル提示
塗装企業は新しい塗装情報を収集し、発注側へ提供する。
情報源は塗装技術の雑誌、技術書、新聞、展示会、インターネットでの検索などの多くの選択肢がある。
このような情報を塗装設計者や、発注先への営業活動や塗装担当者へ提示することで、相互に塗装に対する認識を深め、新たな仕様の改善化に結びつく。
新技術情報では、実際のサンプルを製作し、視覚的に捕らえやすい情報とすることにより、情報が立体化し理解しやすいものとなる。

(5) データの蓄積
発注先に種々の提案をする為には、塗装のデータを常に収集しておく必要がある。
継続してデータを採っておくことが重要である。
継続することによって初めて、季節や時刻による要因、ワーク差、塗料差などそれぞれの違いが認識でき、変更時やトラブル時のすばやい対応が可能となり、受注側との信頼関係を保つ基礎となる。
また、品質との相互関係を調査しておくことで、コストダウンのヒントにも結びつく。

(6) 開発要素の導入
新しい技術を、塗装の中に導入していくために、従来の手法+αのみならず、ここに開発要素を加味していきたい。
この為には、
 1・開発費用の予算取り
 2・試作設備の設置
 3・共同開発者のグループ化
などが必要で、塗装工場では開発費の予算化が大変少ないのが現実であり、今後の生き残り、かつ勝ち組みに入るためには、この枠を確保したい。

(7) 社外への提案
企業は地域社会との密接な関係のもとに、地域社会の構成員としての信頼を構築していきたいものである。
この為に、地域住民を対象とした塗装教室の開催や、塗装していただきたいものを持参していただき塗装の面白さや興味をもっていただくことによって、相互に工業塗装の理解を深めることへの提案も大切な提案型企業のモデル像であるとも言える。

※奥山岑長:(株) エスジー代表取締役

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